「大化改新 ー隠された真相」の印象操作
「発掘!あるある大辞典」の捏造体質がメディアやネットで大騒ぎの昨今でしたけど、こういう体質って、
- 視聴率が欲しい
- そのためには視聴者にとって、わかりやすく、インパクトのある内容にすべし
あたりが基点になってて、結局は「インパクト」のために、話の筋を定説とは異なる方向性に敢えて持って行くようになるし、「わかりやすさ」のために、現状では学術的に灰色になっている部分まで、恣意的かつ強引に白黒つけてしまうようになるわけです。
それは娯楽番組だけでなく、ドキュメンタリーものや、最近では報道番組まで例外じゃありません。表題の番組もそんな匂いがプンプン。
論理の飛躍
蘇我氏が臨海地域の防御を固めた痕跡が見つかったというならまだしも、「甘橿丘の兵庫(武器庫)跡が発見された」ということが、なぜ「蘇我氏が唐から飛鳥宮を守ろうとした」ということにつながるんでしょう?逆に強大な軍事力を持つ蘇我氏が、飛鳥宮を取り囲むように私邸を構えてにらみを利かせていたと見ることだってできますよね。というか、むしろ、その方がずっと自然。(事実がどうだったかはともかく。)このあたりの論理の飛躍は、視聴していて、ちょっと絶句。
「唐の脅威」の印象操作
しかも、唐に対する脅威の根拠が『武経総要』に記載されている楼船の存在だといいます。最初、わざわざ、北京大学図書館を出してくるので、どんな史料を引っ張り出して来るんだろうかとワクワクしていたんですが(個人的には出土資料を期待していたんですが、北京図書館じゃ、よくて敦煌出土本...せいぜい古文書や古鈔本かな..とか)、見事に期待を裏切られました。『武経総要』って、11世紀に編纂されたものですよ?入鹿暗殺のクーデターとは、400年も離れているわけで。しかも、『武経総要』なんて、その辺の大学図書館(→ ref: 1, 2, 3, 4)で見られるし、その気になれば神田や京都の中国関係書店を通じて入手することだってできますよね。わざわざ北京大学図書館の蔵本にする意味がわかりません。(北京大学図書館の蔵本にしか見えない佚文がある..とかいうならわかりますけど。)
はっきりいって、これは「蘇我氏が強大な唐から飛鳥宮を守ろうとした」イメージを印象づけるための無用な演出です。一言でいえば印象操作。
焦点は「改新」そのものではなかったはず
さらにいえば、『日本書紀』の用語・用字の問題は、もう何十年も前から指摘されてきたことで、特に目新しい説ではありません。これを、あたかも最近の新説であるかのように見せているのも印象操作(もしくは単なる調査不足?)といえるでしょう。
そもそも、「大化改新はなかった」という割に、改新の詔の内容説明がほとんどありませんでしたし、要するに NHK としては、改新の有無よりも、甘橿丘の発掘調査を軸にして、蘇我入鹿暗殺のクーデターの方に焦点をあて、蘇我氏のイメージを一新させることで視聴者に「インパクト」を与えたかったのでしょう。だとすれば、「改新の有無」よりも、『日本書紀』に蘇我氏の印象操作が加わっている可能性の方に、もう少しウェートを置くべきだったように思います。
もっとも、いわゆる「勝てば官軍」というヤツで、勝者が敗者を悪役に仕立てるのは歴史の常ですから(この点については、『日本書紀』の編纂が天智天皇や藤原鎌足のジュニア世代に係るという形で、番組でも一応 指摘されてはいます)、話に説得力を持たせるためには、『日本書紀』の史料的信頼性に疑問を投じるだけでなく、蘇我氏に対する従来のイメージを覆すような有力な資料を提示する必要があります。しかし、そのあたりが蘇我蝦夷の庇護下にあった遣唐使の蘇我氏評だけでは、あまりに弱すぎるというものでしょう。遣唐使が蘇我氏の悪評を公言するのは、民放の番組がスポンサーの汚点を流すようなものですから。
結論
「蘇我氏のイメージを一新させたい」という目的が先にありきで、内容を恣意的かつ強引に構成した挙げ句、結局、無理が出て、あちこちで苦しくなってしまっている...そんな印象が強い番組でした。言い換えれば、印象操作されている歴史を、別の印象操作で上書きしてみたってところでしょうか。
裏テーマとして「反動保守(中大兄皇子・中臣鎌足ら)によるクーデター」という、なんだか嫌にタイムリーなテーマも通底してましたね。なんだかプロパガンダ的で、こういうの好きじゃないですけど。
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