坂村健氏が12万字フォントを無償公開
TRON で有名な東大大学院教授 坂村健氏が 12万字規模のフォントセットを今日からはじまる TRONSHOW 2006 にて出品するそうです。この12万字フォント(T書体)は、従来の GT コードの 78,765字に加え、中国の宋・明・清朝や江戸期の文献から抽出された「宋明異体字」が 34,499字、白川静『金文通釈』中の金文を隷定(≒ 楷書化)した「金文釈文文字」661字、そして、変体仮名・濁点仮名といった非漢字 1,814字を合わせ、都合 115,739字で構成されるフォントセットになるそうです。しかもこれらを明朝体・ゴシック体・楷書体の3書体同時に無償提供するというから驚きです。
(2005-12-23補足:なお監修者は同じ東大東文研の平㔟隆郎教授。)
以下、手短にこのフォントの長所・短所・疑問点を掲げておきます。
長所
- 誰でも無料で自由に使える。
- ライセンスが比較的オープンで再配布も可能。東大の外で開発される文字データベースなど、他分野での転用が期待できる。
- 金文のまとまったフォントセットはあまりない点で貴重。(でも 600字ちょっとしかないので、まだまだ全然足りない。)
- 印刷文化が急激に広がった宋・明・清の俗字を収録することは、確かに中国古典籍の電子化には有用。
- TrueType Font なので超漢字に限らず、Windows でも Mac でも Linux でも使える。
短所
- 現在のところ、超漢字以外のOS上ではリッチテキストとしてしか扱えない。
- データ交換に対する配慮がされていない。(Shift-JIS?の限られたコードポイントを複数のフォントが共有することになる。)
- 当然、書体情報を扱えないアプリケーションでは文字化けを起こす上、検索もできない。
- フォントの容量が巨大
- 提供されているのはフォント(超漢字の場合はそれプラス コードポイント)だけで、詳細な異体字情報がないので、類字(字義や用法的に結び付きの強い字)の検索はコード表や辞書とのにらめっこになる。
- フォントフェイス的にフォーマルな組版に堪えられるクオリティは持っていない。
(2005-12-23補足:ちゃんと見られた訳ではありませんが、GT明朝に比べるとかなりタイプフェイスのデザインが改善されている感がありました。)
疑問点
- 白川先生といえば、東大の故 藤堂明保氏と真っ向から古文字の解釈法で対立していた研究者。その白川先生の学説に依拠して隷定された字形を東大が採用することは、驚きを禁じ得ないものの、歓迎すべき流れといえるでしょう。ただ、肝心の白川先生や出版社、印刷会社に対する版権処理や仁義は通してあるのかが疑問です。折角、誰もが使いやすいかたちで公開するのだから、後顧の憂いのないのがいちばんなんですけど..。
34,499字ある「宋明異体字」の典拠は?GT 書体と重複しないとのことですが、それをチェックする手段はどうしているか?
(2005-12-23補足:典拠は以下の通り。ただし『龍龕手鑑』や『篇海』などは、すでにGT明朝が親字(見出し字)を全収録している『大漢和辞典』で参照されている明代の異体字字典ですし、『宋元以来俗字譜』にしても現代の中国の簡体字の根拠となるようなポピュラーな字形(といっても俗字ですが)がごろごろしてます。このあたり、かなりの重複があると思われるのですが..。)
- 龍龕手鑑:15,117字
- 篇海:12,837字
- 碑別字:4,190字
- 宋元以来俗字譜:2,355字
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2005/12/13/023.html
http://slashdot.jp/article.pl?sid=05/12/12/1542248
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